ゆるキャン△
【ゆるキャン△】
宇宙よりも遠い場所とゆるキャン△は、実は近い構造を持っているのではないかと思っている。
最もわかりやすいのが「本来なら男の子が主人公になるべきストーリーを、女の子だけでやっている点」だ。
南極行きと、実際やるとぜんぜんゆるくない「冬キャンプ」。
これが20年前なら、確実に男の子だけのグループ(ないし、女子は1人)だったはず。
ドラえもんメンバーと言っても良い。しずかちゃんは1人で十分なのだ。
しかし、そろいもそろって、女の子のみ。
「1人キャンプが女子だけって、夜襲われたらどうするんですか?(冬だから他にキャンパーがいない?イヤイヤ、他にもキャンパーがいる描写、普通にありましたよね?)」と気になった人は私だけではあるまい。
実際1人で比叡山に登っていた女子大生が、乱暴され、殺されたという事件があった。
日本がいくら安全とはいえ、女子高生が1人きりでキャンプをするのは、やはりリスクが大きい。
しかし、ゆるキャン△では、リンの1人キャンプを丁寧に描写することで「この子なら大丈夫」と思わせることに成功している。
リンの現実的でクールな性格、的確な状況判断、過不足ない装備・・・リアリティを追及することで、視聴者はすんなりと「女子高生の1人キャンプ」の世界に入っていく。
そして、リンと対照的な「キャンプ初心者」なキャラクターは、きちんとグループ行動をとってリスクを軽減している。
舞台がキャンプなので、あくまで現実と地続きで、起こるドラマはさりげなく、カタルシスは少ない。
でも、ゆっくりではあっても確実にキャラクターたちは成長していく。
意外性、ドラマチックさのパラメーターを大きくとったせいで、「宇宙より遠い場所」は設定上かなりのムリをしなければならなかった。
ゆるキャン△は、そのあたり非常にうまい題材を選んだと思う。
視聴対象は主に男性をターゲットとして作られていると思うけれど、それなのに主人公が男性でないのは面白い。
かつて、主人公の男の子は熱血、努力家、超人タイプだった。
それがガンダムあたりから「弱さを持った普通の人間路線」が登場し、「情けない主人公」のエヴァンゲリオンあたりで完成をみたように思う。
それが、今では「男性が主人公であること自体に耐えられない」状況にまで来ている。
南極を目指す男子。1人キャンプをする男子。
男子として「望ましい」「男らしい」「困難に打ち勝つ」そんなメッセージが、息苦しかったり、「そうなれない自分」への劣等感を知らず知らず刺激してしまうということなのか、と思ったりする。
もう一つ、女子は多くの場合、非常に現実的かつ感情的なので、リアクションを簡潔に表現できる利点がある。
「美味しーい!」とか「すごーい!」とか「かわいーい!」とかだ。
男子の場合、温泉に入って、地元の名物スイーツを食べて幸せを噛みしめるにも、なにか「理由」が必要なのだ。
(まず、仕事を休む口実を考えなくては・・・。キャンプが趣味でしょっちゅうキャンプに行っている男性がリンの祖父=仕事をリタイアした人であるのは象徴的だ)
そう考えると、男子は常に様々な「理由づけ」を求められていて、窮屈なのだなと思う。
アニメをぼーっと見るリラックスタイムに、「自分が男性であることをまず横に置いておきたい」という気持ちが、男性不在のアニメ2作品の人気につながっているのではないか。
そんなことを思った。