シン・エヴァンゲリオン感想<ネタバレあり>④アスカについて
新劇でアスカは散々にシンジを「ガキ」だと罵る。
しかし14年の月日を経ても、アスカの本質的な部分は変わっていないように思える。
Q冒頭で、初号機の中で眠っていたシンジがサルベージされて、彼と再会したアスカが真っ先に行ったのは「シンジを殴ること」。
14年たってもアスカのシンジへの怒りは消えていなかった。
シンジはニア・サードインパクトを引き起こし、世界を破滅寸前に追い込んだ罪と、目の前でカヲルを失ったショックで自分の殻に引きこもってしまう。
そんなシンジに容赦なく罵声を浴びせるアスカの姿は、ひたすら彼を優しく見守るトウジやケンスケとは対照的だ。
しかし一見乱暴に見えても、シンジを一番気にかけているのはアスカだ。
※そしてシンジもアスカの本心には気づいている。「どうしてみんな優しいんだよ!」と泣くシンジが言った「みんな」には、アスカも含まれている。
アスカは生ける屍のようなったシンジを、叱咤しながら「本当に死なないように」管理している。
彼女はそれがヴンダーで受けた命令だから仕方なく行っていると「思い込もうとしている」ようだが、わざわざアヤナミレイに「あんたたちアヤナミタイプは第3の少年に好意を持つように調整されている。」と告げたのは、自分自身に言い聞かせる必要があったからだろう。
シン・エヴァで式波アスカがアヤナミレイと同じように、クローンであることが明かされた。
シキナミタイプのオリジナルは、惣流アスカなのだろう。
惣流アスカは旧劇で弐号機の中に母親の存在を見つけ、欠けていた愛情が満たされたことで「補完」は終わっている。
※しかし、ラストに問題があり、彼女が旧劇の世界で本当に救われることはなかった。
そのアスカをオリジナルとするシキナミタイプには、父親も母親もおらず、惣流から受け継いだ記憶の断片である「パペット」だけが心の拠り所だ。
式波アスカが、「自分は何者か」に苦しむのは、惣流よりさらに親の不在が突き詰められた出自だからだろう。
アヤナミタイプと同じように、クローンであるシキナミタイプのアスカもシンジに好意を持つように調整されている。
すべては決められたプログラム通りの感情で、アスカにとってみれば非合理で不愉快。
しかし、頭でわかっていても感情を消すことはできない。(それがマリがアスカの髪の毛をカットする場面で示唆されている)
「死装束」を着て臨むネルフ本部への出撃時に、わざわざ寄り道してまでシンジに「最後に聞いておきたい。どうして私があの時あんたを殴ったか、その理由はわかったの?」と詰め寄るのは、その直前まで自分の気持に折り合いがついていなかった証拠だ。
プログラムされた感情(シンジへの好意)を「偽物、本当の自分の心じゃない」と感じて抵抗するアスカと、「その感情を持っている自分が『今まさに存在していること』は事実」として受け入れているアヤナミレイは、シンジを挟んで対極にいる。
アスカとケンケン
アスカは(まだ)ケンスケと恋愛関係にはない。ただ、気を許して信頼しているのは間違いない。
彼の家に居候しているのは、ヴィレとの連絡が取りやすい環境にケンスケがいるからだろうし、彼の前で裸でウロウロしているのは、もはや「自分がヒトではなくなった=男だ女だという以前の問題」だからだろう。
だからシンジに全裸を見られても、隠すどころか「ほら、見ろ」と言わんばかりの態度をとっている。
※ケンスケと恋愛関係にあるのなら、わざわざ自分の裸を見せびらかすようなマネはしないだろうし、ケンスケだってそれを許さないだろう。
ケンスケにとっても「14年間水以外必要としない、年をとらない少女」は異性として意識する対象にはなり得ないのだろう。
ただ、14年間の彼女の苦労を見聞きしている分、思い入れは強く、彼女の父親のような気持ちでいるのではないだろうか。
エヴァ13号機との戦闘で、使徒化したアスカがアスカオリジナルと出会う場面で描かれる式波アスカの過去は断片的だ。
複製体が常に何体か用意されているアヤナミタイプと違い、シキナミタイプは同じクローン同士で競わせ、最も優れた個体以外は処分されていたのではないだろうか。
(シン・エヴァの中で、培養槽にいる沢山のアスカが徐々に減っていく描写があった。)
自分は沢山いるアスカの中から選びぬかれたエリートなのだ、という「感情」が弐号機とシンクロするために必要不可欠だからではないかと想像する。
※かつての惣流アスカに似た存在を作り出すために必須の要素のため。
アスカがシンジに執着するのは、プログラムされた感情によるのはもちろんだが、
①シンジが自分より優れた戦績を上げるエヴァパイロットであること
②「親との確執を抱える欠落した自分」を持っているから だろう。
①は、エリートたる自分が好意を持つ相手は、それなりの実力者であるべきという価値観から+同じ特殊な環境にいて、共感しやすい(共感してもらいやすい)から
②は「自分は何者なのか」に悩む姿が自分と重なるから
だ。アスカは、形を変えたシンジなのだ。
だからこそ、最後にアスカを救うのはシンジにはなり得ない。
式波アスカを救ったのは、第三村にいるケンスケだった。
パペットの着ぐるみを脱いだケンスケが「アスカはアスカだ。そのままでいいんだよ」と彼女に告げるのは、アヤナミレイが第三村でたどり着いた答えと同じだ。
たとえクローンでも、今自分が感じて、悩んでいるすべてが自分自身を形作っていること。
未来は誰にもわからない。ただ「今」のありのままの自分が存在すること。
それだけは確かで、それで良いのだ。
そのことに気づいたアスカは「エヴァに乗ること」から解放された。
誰かに褒められるために、認められるためにエヴァに乗らなくて良い。
第三村に帰って、新しい生活を始めて良いのだ。ケンスケはうまくアスカと第三村の人々の仲を取り持ってくれるだろう。
波打ち際にいたアスカは誰か?
プラグスーツが旧劇のものだったことから、惣流アスカだろう。
惣流アスカは、「まごころを君に」ラストでシンジに首を締められ、「気持ち悪い」と言った後、ずっとあの浜辺に取り残されていたのだ。
浜辺でひとりきり14年を過ごしたアスカは、28歳の姿になっている。
※その間に彼女は成長しているので、プラグスーツのサイズがきつくなっている。
シンジ「アスカのこと、好きだったよ」
旧劇で有耶無耶になっていたシンジとの関係に終止符が打たれ、惣流アスカの心残りも消えた。
そこで初めて、式波アスカと惣流アスカは統合され、新しい世界=第三村のケンスケの家へ帰ることができた。
28歳の姿になったアスカは、これからケンスケと恋愛をするのかもしれない。そうでないかもしれない。
未来はわからない。
ただ、第三村に自分の居場所を作っていくことができるはず。そんな希望のあるラストだった。
★台詞はうろ覚えのため、間違っている場合があります。記憶を頼りに書いているため、ご容赦ください。